社会人基礎力研究 創刊号  2020年3月 

特別寄稿
「人生100年時代の社会人基礎力」と自律的なキャリア
川浦恵,経済産業省経済産業政策局産業人材政策室   

<要旨> 2017年に経済産業省が提唱しました「人生100年時代の社会人基礎力」と当該概念が必要となってきた社会の構造変化や学び方の変化の紹介とともに、社会人だけでなく学生にとっても自律的なキャリアを構築する姿勢の重要性について記載しております。

論文
社会人基礎力とフロー体験との関係
チームプロジェクトを通じた大学生の成長観察からのアプローチ
潜道文子,拓殖大学商学部    

<要旨> これからの時代で,成功を収める上でカギを握る重要な資質といわれる「ハイ・コンセプト」や「ハイ・タッチ」という本能的・感情的な要素も含む社会人基礎力の育成と,生活の質を向上させ,人を幸福にするというフロー体験とは何らかの関係があることが推測される結果を得た。また,チーム内の心理的安全性の高さは,社会人基礎力の育成,およびフロー体験の獲得に影響を与えることが推測される。

短期大学における社会人基礎力を指標としたキャリア教育研究
~正課教育と正課外教育の統合による指導方法~
澤田裕美,大妻女子大学キャリアセンター 

<要旨> 修業年限が2年間の短期大学においてキャリア構築支援を図るべく,社会人基礎力を指標として活用し,正課・正課外を統合した指導方法を研究した。2015年度は正課(前期)のみであったが,2016~18年度は正課(前期)に加え,正課外として履修生有志による商品開発・販売を実践した(2016年度は後期,2017・18年度は1年半にわたる)。参加者は正課・正課外の間を往還しながら学修を統合し,内省を繰り返し,社会人基礎力の向上に励みつつキャリア構築を図った。

研究ノート
未来に向けて社会課題と人材育成を考える~「社会人基礎力」育成への期待~
中島大輔,日本電気株式会社・高知大学希望創発センター      

<要旨>「人生100年時代」がおとずれようとしている一方で、地球と人間の永続的共生に向けた「持続可能な開発目標(SDGs)」や新しい時代に合わせた社会や産業の革新を目指す「Society 5.0」等の動きが大きく打ち出されている。これらはいずれも社会構造の変革を意味するものであり、これからの時代を生きる人材の議論と切り離すことのできないものである。これら時代背景を踏まえ、将来に向けた人材育成への期待を再確認し、「社会人基礎力」育成に向けた議論の一助としたい。

「中堅・中高年社会人」に必要な社会人基礎力
渡邉明男,富士ゼロックス株式会社

<要旨> 「人生100年時代」の到来により企業において働く社会人は、定年を超えて働くことが当たり前の時代となった。また、経済産業省において、「人生100年時代の社会人基礎力」(以降「新・社会人基礎力」)が検討され、新たな3つの視点と、中堅社会人と中高年社会人の世代に対する記載が追加された。本稿では、「中堅・中高年社会人」に必要な能力を検討し、「自己認識」、「レジリエンス」、「社交力」の3つの能力が「新・社会人基礎力」に不可欠な要素であることを指摘した。

   

評論
女子大生国富論~女子大生と「社会人基礎力」と女性活躍~
芝原侑次,専修大学エクステンションセンター・元跡見学園女子大学マネジメント学部

<要旨> 男女雇用機会均等法施行(1986)以来、能力・意欲の高い女性の社会進出は拡大し、女性活躍は推進されてきた。一方、「女性活躍未だ道半ば」と言う声はやまず、法令や制度・システムだけでは会社(組織)は変わらないことを知る。いま会社・男性の意識改革やジェンダー論議が高まるほどに、いつも「水面下にある組織風土(地合い)のマグマ」に押し返されてきた。この原点を1960年代にあった「女子大生亡国論」から、現代「女子大生」の在り方を振り返り、「女子大生改革」を通した「次代を担う人材育成」を提案する。「覚悟と挑戦」。女子大生にとって未開拓である実践現場での「社会人基礎力」を基軸とした「女子大生国富論」を展開する。ここでは「多数派の普通の女性の活躍」が日本を豊かにする姿を描いている。

社会人基礎力とともに過ごした10年
深澤晶久,実践女子大学文学部・オリンピック・パラリンピック連携事業推進室 

<要旨> 2008年の社会人基礎力提唱から10年余り、前半は企業の人事担当者とりわけ採用の責任者の立場から、後半は、大学のキャリア教育担当教員として、それぞれの立場から「社会人基礎力」に接し、多くの若者たちと考えてきた。その実例を通して、社会人基礎力とともに過ごした10年のストーリーを振り返りたい。